『FF-TCG』描き下ろしイラスト紹介 イラストレーターインタビュー第1回:松田俊孝
世界中で遊ばれているアナログTCG、『ファイナルファンタジートレーディングカードゲーム(FF-TCG)』には、ファイナルファンタジーシリーズからたくさんのキャラクターやモンスターが登場しています。懐かしいイラストがカードになって登場している一方で、実は、『FF-TCG』のために描き下ろされたオリジナルのイラストが多数収録されています!
本特集では、収録されているイラストをイラストレーターへのインタビューを織り交ぜながらご紹介します。さらに、イラストの一部を壁紙としてFFポータルアプリにて配信いたします!
『FF-TCG』向けに『ファイナルファンタジーII』および『ファイナルファンタジーV』の描き下ろしを担当されているスクウェア・エニックスの松田俊孝氏、そしてマーチャンダイジング事業部『FF-TCG』担当の松山氏に、今回の描き下ろしについてお話を伺いました。
松田俊孝プロフィール:
ファイナルファンタジーシリーズでは『ファイナルファンタジーIX』、『ファイナルファンタジーX-2』、『ファイナルファンタジーXIII』などに携わり、『キングダムハーツ』や『ブラッド オブ バハムート』などでもアートを手掛ける。『メビウス ファイナルファンタジー』ではアートディレクターを務めている。
―今回松田さんが担当された『FFII』の描き下ろしは、『FF-TCG』の景山プロデューサーが『メビウスFF』の画集で松田さんの描かれたミンウを見たことがきっかけだったそうです。実際のイラストの発注は松山さんから行われるとのことですが、どのように制作が進められたのでしょうか。
松山:そうですね、本当の始まりにさかのぼると、自分がグッズの事業部に所属していて『メビウスFF』のTシャツを作ったことがあるのですが、その時に初めて松田さんの絵を見たんです。そのTシャツのデザインに使われていたのが、『メビウスFF』のコンセプトアートだったんですね。すごくアメコミ調に、白黒で描かれていました。
―確かに、今回の描き下ろしイラストは『メビウスFF』での松田さんの絵とは全く違う印象になっていますよね。そこからどのようにイラストが完成していったのでしょうか。
松田:まず、レオンハルトから描き始めましたね。
松山:そうでしたね、最初はコントラストの強い、真っ黒な絵でした。オランダの画家レンブラントを想起させるようなテイストで描かれていたんですね。それを見て、描き込むところと描き込まないところのメリハリを思いっきりつけてもらって構わないですよ、と伝えました。その上で松田さんから何パターンか出してもらった中に今の白背景のものがあり、これでいきましょうという話になりました。
松田:今回お話を頂いたときに、楽しんで描いてください、というのがベースにあったので、いろいろ実験をしています。背景の処理とかも色々試していたら、現状に近いイメージができたときに、こういうのはありなのか、一度相談してみようかなと思ったら、気に入っていただけて、こういうテイストもありなんだな、と。実はレオンハルトと並行してマリアも進めていて、今と全然違う形で背景に樹林なんかがあったりするような形で完成一歩手前まで行っていたのですが、レオンハルトのテイストに合わせて背景をガリガリ削っていったところ、個性あるFFのキャラクターにピントが合うテイストになりました。特にキャラの想いが一番現れる、表情(顔)にフォーカスを当てています。
松山:今回個人的にこだわりがあったのは、ピンスポットでライトが当たっているような表現です。個人的に気に入っているのはマリアのイラストの、矢の羽の“赤”ですね。
―松田さんにとって今回ミンウが2回目の描き下ろしだったかと思うのですが、何か違いを意識された点はありましたか?
松田:そうですね、実は『メビウスFF』で描き下ろしたときにやりたいことはやり切っていたのですが、今回また描き下ろすことになり、せっかくなので人間性を深く掘り下げてみようと考えました。表面上のきれいさについては『メビウスFF』の時はかなり意識していたのですが、今回はミンウの決意や仲間想いの性格、熱い男ということを表現しようと。また最後には、はかなく散って未来を託した、というイメージで光を当てています。私自身が心を動かされたキャラクターが躍動している雰囲気を出したかったんですね。このミンウは1日そこらで描き上げています。
―他のキャラもリサーチされたのでしょうか。
松田:はい、スコットについても改めて調べてみると、王の中の王というか、未来を見据えた自己犠牲を選択できる、素晴らしい王様だなと。スコットは天野さんのイラストもなく、参考になるものがかなり少なかったのですが、脇役ではなく、主人公としての彼を描こうと思い、彼の全盛期を描くつもりで、遠くを見据えた表情を描きました。
―確かに宮廷画家が描いた、王族の肖像画のような印象を受けます。気に入っている一枚や苦労した一枚はありますか?
松田:そうですね、一番苦労したのは、このテイストに決まるまでに試行錯誤を続けたレオンハルトなのですが、特にマリアは最初に描いていたものからこのテイストに変えて、うまくはまった一枚だったと思います。あとは松山さんが赤を気に入ってくれたことから、差し色を意識するきっかけになりました。
―最新ブースターパック「Opus VII」では『FFV』のキャラクターを描き下ろしされていますが、どのように進められたのでしょうか。
松田:はい、描き下ろしが2回目だったので違う表現を色々試してみようと思いまして、描き込まない=削るではなく、にじみを表現として使いました。形を作るのは色ですが、その色が崩れているところと形となっているところを融和させる表現を試してみました。方向性としては『FFII』である程度定まっていたので、踏襲するところは踏襲しつつ、変化も持たせたいと思って取り組みました。
―『FFV』の描き下ろしの中でもバッツだけ雰囲気が全然違いますよね。プロデューサーからは「Opus VII」のパッケージアート用に描いてください、という指示しかなかったそうですが、どうして黒背景で全く違う雰囲気になったのでしょうか。
松山:そもそも、パッケージアートとして描いていただいたのはバッツが初めてなんですよね。ひとつ前の「Opus VI」は実は別のパッケージアートを予定していたものが、フリオニールのイラストがあまりにもかっこいいので、「これパッケージアートにしましょう!」と(笑)。その流れで次の「Opus VII」ではバッツをぜひパッケージにしたいです、と景山プロデューサーの方からリクエストがあったんです。流れとしては、私が「こんなイメージで描いてほしい」という材料を持ち寄って、二人で相談しながら方向性を決めていく感じです。
松田:まずバッツを描こうとなった時に、ポーズだけは最初からこれだと決めていました。最初は『FFII』の雰囲気を踏襲して背景を白で描いていて、顔が目立つように背景の白とのコントラストを強くして一旦完成までいったんです。そうしたら、松山さんから「Opusシリーズのパッケージは実は、白と黒が交互にイメージカラーになっているんですよ・・・あ!でも気にしなくて全然OKです!」と・・・(笑)。そういわれると、なんだか自分の中で引っかかるようになってしまって、今までの伝統をここで変えるのは美しくないなと思い、急遽背景を黒に変えてみたんです。そうしたらなんと、自分の中ですべての要素がストンとはまったんです。すべての伏線が回収されたように。背景を白になじませるように描いていたのですが、バックを黒にすることで背景が強く出て、表現したかったバッツの強い意志が感じられるようになりました。
―なるほど、ではこのバッツは、偶然が生み出した奇跡の一枚だったのですね。
松山:バッツについては、特に左目の描き込みがすごいんです。目の輝きとハイライトがものすごかったため、パッケージはこの左目の輝きを最大限活かすように調整しました。この左目を活かすには背景の黒が重要かと思い、真っ黒なのに深みのある、リッチブラックが出るようにしました。ただ、問題はリッチブラックは高いということです(笑)。現場から「原価が上がりますよ」と言われましたが、「構いません」と答えました。
―左目の描き込みについて、やはり松田さんも力を入れられたところだったのでしょうか。
松田:ゴールが見えないときはできるところを頑張って描くしかないので、その跡が残っている形ですね(笑)。絵が決まってくると、描き込むべきポイントが明確になってきますが、バッツの場合はこの左目でした。
―ちなみに、若干“和”のテイストを感じるんですが、それは最初に提示された資料の影響を受けているのでしょうか?
松田:和風のテイストを感じるのは、金をあしらいたかったので蒔絵資料などを参考にした結果だと思います。日本が本来持つ美しさは本当に素晴らしいと感じているので、それを盛り込んで表現できたらと思って入れ込みました。
―バッツは何種類か衣装がありますが、今回の衣装にされた理由は何かあったのでしょうか。
松田:そうですね、シンプルに最初に描き始めたのがこの衣装だったんです。調べている中で違う衣装もあることに気づきました(笑)また髪の色についても、最初は茶色で描いていたのですが、黒背景にした段階で映えるようにと、最終的に今の色に変えました。
―描き下ろしたキャラについて、今回『FFV』からはバッツと、暁の4戦士が選ばれました。キャラの選定は景山プロデューサーが行うそうですが、暁の4戦士の持つドラマと松田さんのイラストの持つ「ドラマ性」がマッチするのではないか、と考えたそうです。
松田:そうですね、『FFII』の時と同様、一人一人の設定を深く調べたのですが、これがまた渋いんですよね。ゼザなんかは実は以前『メビウスFF』で描き下ろしをしていて、今回2枚目だったのですが、最後一人艦隊を走らせるような男気を持っている人物ということを知りました。実在の人物の肖像画を描いている気持ちで描いています。
松山:私はどこまで描き込むか?という相談を受け、足すよりも、引く、という考えでやってもらえるように伝えました。
―ぼかし・にじみの表現にグラデーションとも違う、独特の存在感を感じます。
松田:今回色を伸ばすときに、指先ツールで伸ばすのではなくて、色を作って塗っています。グラデーションもただ明度、彩度を変えるだけではなくてそれぞれ色を作ってグラデーションを作りました。
▲バッツの次に松田さんのお気に入りだというケルガー。マントのにじみが特徴的。
―今回『FF-TCG』向けにイラストを描かれて、何かこれまでの仕事と異なる点はあったでしょうか。
松田:そうですね、まず、ここまで熱く語らい合いながら描くということはまずないです。「自分らしさを出してください。作家性を求めているので」と言われて、自分の表現を受け入れてくれているのだと思って、心強さがありました。それまでのきっちり描く、しっかり描くというのとは違う、絵を描く楽しさとか自由さを再認識でき、それが逆に『メビウスFF』の仕事にも反映されるようになりました。ある程度ルーチンになっていた部分がだいぶ変わってきて、表現の幅を広げることに挑戦してみたり、絵を描くという原点に立ち返れたと思います。
松山:『FF-TCG』にはFFのアートがたくさん登場していますが、中でも描き下ろしイラストについては、パッケージを開けたときに、当たりだと思ってもらえるようなものにしていきたいと思っています。そういう狙いもあり、普段描いているゲームの設定画とは違う、一つの作品としての絵を描いてもらいたいと考えています。
―ありがとうございます。最後に、3月発売のブースターパック「Opus VIII」の描き下ろしとして公開されているイラストについても少しうかがえたらと思います。これまたテイストが180度違うじゃないですか!かっこよすぎます。
松山:そうですね(笑)。実は、最初松田さんから上がってきたバハムートは、普通のかっこいい、ちゃんとしたバハムートだったんですが、もっと筆っぽく勢いがある感じ、モンスターが暴れるようなイメージでできないでしょうかと相談しました。
松田:そのあと、どこまで暴れさせていいですかというのを段階的に見せていたんですが、結局一番暴れているものが最終的に使われることになりました(笑)。『メビウスFF』の初期にアメコミっぽいコンセプトアートをたくさん描いていたので、モンスターはそのイメージでやってみるという話になりまして、筆を生かすような形を強く出すように調整しました。
―黒の強さにアメコミが感じられて、和洋折衷が見事に表現されていると感じました。
松田:そうですね、黒を強く出すというのは意識していました。アメコミでは黒のバランスを意識しているところがあって、今回もどこで黒を強く出すか、というのを意識したのが残っているのかなと思います。
―今後、描き下ろしをしてみたいタイトルはありますか?
松田:『ファイナルファンタジーVI』ですね、好きなタイトルなので。ちょうど一番時間があって、ゲームに没頭できるタイミングでプレイしていたのが大きいかと思います。
―松田さんの世界観で描かれた『FFVI』のキャラクター、ぜひ見てみたいです!本日はありがとうございました。
次回は『ファイナルファンタジータクティクス A2 封穴のグリモア』の描き下ろしを担当された伊藤龍馬さんのイラスト紹介&インタビューをお届けいたします。お楽しみに!
松田俊孝氏描き下ろしの「フリオニール」が壁紙になりました!
■デジタルコンテンツ(壁紙)
- アイテム名 : 描き下ろしイラスト『フリオニール』壁紙
- 交換条件 : (有効期限内)何度でも
ファイナルファンタジーシリーズに登場するキャラクターや召喚獣を駆使して、1対1で対戦するカードゲーム。お馴染みのキャラクターのカードを集めるコレクションとしての要素だけでなく、ルールはシンプルながら奥の深いゲーム性による、カードゲームとしての面白さが最大の魅力。
公式イラストレーターによる描き下ろしイラストも大好評!